はとにまめでっぽー

本とかゲームの感想や、日記を綴るよ

ホラー小説『骨灰』がガチ面白かったので感想を書く

こんにちは。

ここ数日、めちゃくちゃ良作との出会いがあったので、久々に感想記事をば。

沖方丁さんの「骨灰」です。

www.kadokawa.co.jp

本作を読もうと思ったきっかけは、Twitter(X)で朝宮運河さん(@Unga_Asamiya)が開催されている #ベストホラー2023 の国内ホラー小説ランキングに2位にランクインしているのを見たこと。

暇つぶしに読んでみることにしたのですが、いざ読み始めたらまぁ面白くて暇になるまで待てないという。駆け抜けるように読んでしまいました。

素晴らしい出会いを下さった朝宮運河さん(@Unga_Asamiya)はじめとするホラー愛好家の皆様には感謝です。

ちなみに、読了直後の私のつぶやきがこちら。

当時はネタバレを避けたくて、とにかく詳細をぼかした言い回しにしたのですが、こうしてみると情報量が少なくてどこが面白いんだかよくわからないですね…。

というわけでこっち(ブログ)では、あらすじを軽く紹介したのち、ネタバレありでがっつり感想を書いていきたいと思います。

『骨灰』あらすじ

大手デベロッパーのIR部で勤務する松永光弘は、自社の高層ビルの建設現場の地下へ調査に向かっていた。目的は、その現場について『火が出た』『いるだけで病気になる』『人骨が出た』というツイートの真偽を確かめること。異常な乾燥と、嫌な臭い――人が骨まで灰になる臭い――を感じながら調査を進めると、図面に記されていない、巨大な穴のある謎の祭祀場にたどり着く。穴の中には男が鎖でつながれていた。数々の異常な現象に見舞われ、パニックに陥りながらも男を解放し、地上に戻った光弘だったが、それは自らと家族を襲う更なる恐怖の入り口に過ぎなかった。

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感想(ネタバレ注意!)

・最初からクライマックス!!

さっきのあらすじを読んでいただいたらわかると思いますが、しょっぱなから謎の祭祀場鎖につながれた男などなど、普通のホラー小説ならここが山場でも全然おかしくない展開のラッシュ。

最初から「え!?この後どうなるの!?」という気持ちにさせてくれる。そんで序盤だけの勢いで終わらず、その後も更に怖くなっていくんだからすごい。

脚本が破綻しないように山場を連続させるのってめちゃめちゃ難しいですよね。これで初ホラーってマジ?

・父の愛

当たり前ですが、祭祀場に鎖でつながれていたおじさんは、決して素人が解放していい人物ではありませんでした。

主人公・光弘が調査を進めると、彼が原義一さんという認知症患者であること、彼がいた祭祀場の"穴"は「骨灰(こっぱい)」と呼ばれる東京全土の焼死者たちの怨念が困った場所であり、原さんはそれを抑えるための水神の御饌使(みけし、生贄と違って死なずに済む可能性もある)として穴の中にいたことが明らかになります。

鎖でつながれていたのも、原さんは認知症を患っていることから、役目を忘れて逃げ出さないようにと自ら儀式の担当者に頼んだことだったのでした。

原さんを解放してしまった光弘は"穴"から解き放たれた骨灰に目を付けられます。暖かな家庭・念願のマイホーム・やりがいのある仕事…と幸せ一色だった当初から一転。骨灰たちに家の中に侵入され、周囲の人々に対して攻撃的になるだけでなく、仕事と称して"穴"に生贄を捧げることを第一にするようになり、どんどん孤立してしまいます。

優しかった光弘が道を誤っていく様子は、見ていてかなりしんどかったです。

そしてとうとう14人もの人間を"穴"に捧げ、もう後戻りできないところまで堕ちてしまったと思われた──そんな光弘を救ったのは、死んだ父の墓石とハンカチ!

それらに触れた瞬間、光弘を操っていた偽父(演:骨灰)は霧散し、焼死した亡者どものパーティー会場と化していた光弘のマイホームも、完全ではありませんが秩序を取り戻します。

読んだ時はこのシーン、ホッとすると同時に「ちょ、パパ強すぎん?笑」と思ってしまいました。

いや、ちがうんですよ。一故人が東京全土の焼死者の塊に勝つのがそう簡単なわけないじゃないですか。パパが魂をかけて守ってくれたから、光弘はこんな厄介な敵を退けることができたのです。

ちなみに、実は光弘パパもかつて骨灰に祟られた一人であり、そのせいで家族に対して高圧的になった時期があったことから、光弘には複雑な感情を抱かれていました。最終的には家が全焼し(多分骨灰の祟りによる出火)、水辺に新居を構えることで元の人格に戻ることができたそう。

そんな安息の地の墓を離れ、因縁の地にある貯水槽を新たな墓標としてようやく息子を守れたということは、それだけ骨灰が強い力を持つ存在であるということと、それに劣らないくらい父の息子を思う気持ちが強かったということだと思います。

・そしてラストバトルへ

さて、話を戻して、お父さんの助けでようやく正気を取り戻した光弘。

冷静になったことで、この事件がただただ怪異の仕業というわけではなく、背後に玉井工務店(注:祭祀場と儀式を管理していた、東京開発の影で暗躍するオカルト組織)の荒木の存在があることに勘づきます。

全部オカルトで片付けず、霊的パワーだけではどうにもできない、悪意を持った生きた人間がいるという、サスペンス要素もあるのが大変緊迫感があっていいですね。

しかし黒幕の存在に気付くも時すでに遅し、なんと娘の咲恵ちゃんが荒木に攫われてしまったのです!

光弘は、過去に自身と同じく祟られた経験があり今回の工事の現場責任者である菅原所長、そしてついに原義一さんとも合流し、みんなでこの祟りを終わらせるべく、荒木の元に向かいます。

途中、菅原所長が脱落しましたが、光弘パパと菅原所長の弟さんが守ってくれたのか、無事一命はとりとめます。一方、光弘は原さんを連れて"穴"へ。

すっかり正気を失った荒木と格闘になり、ひどい痛手を負いますが、父の「頑張れ」という声に奮わされ、僅かな力を振り絞ってなんとか立ち上がります。ボロボロになっていた光弘でしたが、原さんの加勢もあり、咲恵ちゃんも無事意識を取り戻します。

ここの格闘シーンも緊迫感があって非常に読んでいてワクワクしました。原さんの「なんで邪魔するんだよォ!かあちゃんを施設に入れなきゃいけないのによォ!」という叫がかっこよくも切ない。

・結末と代償

乱闘の結果、荒木から無事咲恵ちゃんを奪還した光弘。原さんは咲恵ちゃんの無事を見届けると穴の中に自ら戻っていきましたが、その瞳には覚悟が宿っているように見えました。

やっと事態が落ち着いて安堵する一方で、もう少し早ければ…!と思わずにはいられません。何故なら前述の通り、既に光弘は14人のホームレスを穴に捧げてしまった後であり、彼らは二度と戻らないのです。

光弘は逮捕されて罪を償ってエンディングかな?と思いきや、なんと玉井工務店が警察に手をまわしておりその件は無罪放免。玉井工務店の荒木にぼったくられたお守り代等も全額返金されることになりました。

う~ん、確かに光弘もわざとやったわけじゃないけど、やっぱり罪のない人々の命をたくさん奪ったのは事実だし、ずいぶん都合がいい終わり方なんだな…と、わずかなモヤモヤを残したまま読み進めます。

その後、光弘は玉井工務店の社長に連れられて、"穴"を封印する儀式に立ち会うことに。

現場に到着すると、穴の周囲には土が盛られ、そして底には原さんと荒木が。光弘がどういうことだと思った矢先、ついに儀式が始まり、ようやく彼は自分がやったことの重さを知ることになります。

原さんと荒木は穴の中で生きたまま土を被せられ、更にその上には追い打ちのようにコンクリートパイルが埋め込まれました。光弘は彼らが人柱となるのをただ見届けるしかありません。そして、その秘密を生涯一人で抱え込むことになりました。

私の印象なのですが、光弘は原さんを連れ戻して儀式を再開すれば、全てが元通りになると、なんとなく考えていたんじゃないでしょうか。

以前玉井工務店の社長から説明してもらった通り、原さんが穴の中で過ごした後、人形(生贄の代用品)と数日間共に寝起きして、最終的には人形だけで結界を維持できるようになるはずだと。

ただ、それは全てが順調にいった場合の話で、物語中盤で光弘が荒木からお守りを買うときに「これ以上"穴"と縁を持つと、御饌使の身代わりとして、穴の中に何日もいる以上のことをしなければならない(要約)」というようなセリフがありましたが、これは荒木の嘘などではなく本当のことだったのではないかと私は思っています。

光弘が儀式を中断させたことで、骨灰と原さん・荒木の縁がどうにもできないほど強まり、また骨灰自体の力も人形などでは抑えきれないほどのものになってしまったのではないでしょうか。

本編開始前から祟られていた荒木はともかく、原さんについては光弘が儀式を邪魔しなければ、今回の仕事でも指定の日数を終えたら、報酬をもらって愛する奥さんのもとに帰れたはずです。

光弘は原さんの奥さんがどんな気持ちで彼を待っているか知っていますが、儀式を見守るしかありません。だってこうなったのは自分のせいだし、儀式をやめたら自身の家族だけじゃなく、もっと大勢が死ぬことになるからです。

ハッピーエンドかと思いきや、やはりそこはホラー小説らしく、むごい結末で締めくくられましたね。

・埋めたもの

なんやかんやありましたが、ついにビルも完成!

光弘と家族は平穏を取り戻し、お腹の中の赤ちゃんも生まれるどころか喋れるようになっている!

第二子の名前は幸多郎くん。いわずもがな、光弘パパ・幸介の名前からとってますね。最初は父親に対してネガティブなイメージを持っていた光弘ですが、骨灰に祟られたことをきっかけに自分が父に尊敬と愛情を抱いていたこと、そして父も自分を愛してくれていたことに気づいたのでしょう。

そして、視界の端に荒木が見える。今のところは害はないけど、目を合わせるとだんだん近づいてきてしまうらしい。怖すぎる。なので光弘もすぐ視線を逸らしてたけど、チリツモで最後にはめちゃくちゃ近くに来そうな気がするのは私だけ?渋谷に行かなきゃ出現しないのであれば、なんとかなる…かなぁ?でも毎日通勤しないといけないもんね…。

一方で自分や咲恵を守ってくれた父と原さんは、交差点から光弘をじっと見つめた後、人ごみに消えていきました。

荒木は最後正気を取り戻していたように見えたけど、あの二人と別で出現するということは、やはり完全には戻れなかったんだろうか…。話を聞く限り相当前から祟られていて、実際かなり精神を侵食されていたからなぁ。先述の通り光弘はさっと目をそらしているので、どんな表情でこちらを見ているのかわからないのも不穏ポイント。

ていうか、パパと原さんが地上の交差点にいるのに、荒木だけ同じフロアって…なんか近くない?大丈夫だよね?執念で追ってきてるとかないよね?

今後、光弘が玉井工務店の社長の教え通りこの事実を一生誰にも漏らさず生きていければ、お父さんと原さんが見守ってくれている限り、──そしてあの結界を壊す誰かがまた現れない限り、きっと光弘や家族が災厄に見舞われることはないでしょう。

全体的にきれいにまとまりつつ、それでも若干の不穏さと、希望を残して終わる、というのが良い塩梅で素晴らしい。

「知ってるか?おれたちみんな、死者の上で生活しているんだ。」

帯にもあるこのセリフ、読了前は自分が立っている場所が実は事故物件だったことに気付いてしまったような居心地悪さを覚えますが、読了後は骨灰やそれを鎮めるために犠牲となった原さんや荒木、そんなことは知らずに彼らの上で生きている人々(かつての自分のように)への言葉だとわかります。

その他、細かい小ネタと考察

・因果が続くとしたら

無事骨灰は封印されましたものの、「因果が続く場合身内に行く」という説明と、父から息子へ因果が引き継がれていること、そしてご丁寧に祟られ実績のある光弘パパの字を貰っていることを考えると、万が一この因果が引き継がれるとしたら恐らく幸多郎くんに行く気がするので、どうにかして彼には土地開発と全く縁のない会社に就職してほしいですね。なんだろう、NASAとか…?

ただ、人間が地に足をつけないと生きていけない以上、どんな生き方をしても土地に全く無縁の生き方というのはできないよなぁ。

・竹中の罵倒

妊娠中の妻・美世子の検査に立ち会うため、上司の竹中に早退してもよいか相談する際「お前が産むわけじゃねぇだろうが!」みたいな感じで罵倒されて光弘が失望するシーンがありますが、それまで電話越しの竹中のセリフは《》で囲われていたのに対し、その罵倒の部分だけは普通の「」であることに気づいたのは私だけではないはず。あれは横にいる偽父(骨灰)が竹中の声を真似て叫んだという解釈でOKかと思います。

・水と火

今作では一貫して、水は安全なもの、火は危険で有害なものとして登場します。パパの墓石のお祓い方法がもしお焚き上げとかだったら、最終決戦時にあの穴の上にある貯水槽にはたどり着けなかったですよね。

ただ日本の神様ってのは人類の加護者ではないと思うので、今回はたまたま敵対勢力の対抗勢力だったから水が助けてくれただけ、という風に私は解釈しています。その証拠に、儀式がうまくいかないと水神様が御饌使を招いてしまうことがあるという話もありました。招かれた御饌使は何処に行ってしまうのか?というのは言わずもがな。

良い神様!と雑に括るのではなく、その辺をちゃんと伝わるように書いてるところに好感が持てます。

・ホームレス

今作にはよくホームレスが登場します。彼らを憐れみつつも内心ではどこか嫌悪感を持ち(骨灰に人格を歪められていたとはいえ)、自分が同じように転落することを恐れながら、父の言いなりになって穴に生贄を捧げ続ける光弘と、奥さんや世の中のために躊躇いなく自分を犠牲にできる原さんの対比は印象的です。

原さんの高潔さに心を動かされる一方で、世間がもう少し彼らに目を向けていれば原さんや14人のホームレスたちは穴の中に埋もれずに済んだかもしれないな…と思わずにはいられません。

・荒木の言動

骨灰に憑かれていた荒木ですが、光弘に死んだ身内の遺品を着けるように勧めたりしていましたよね。

光弘もあくまでIR部の業務の一環として生贄探しを行っていたので、荒木も本人的には真面目に神職として振舞っていたつもりだったのでしょう。

また骨灰も現在の感情や現実に対する認識を歪めることはできても、既存の知識は歪められなかったものと思われます。

感想終わり

他にも光弘の自宅が本当にパワースポットだったりしないか?とか、いろいろ気になるところはあるのですが、とりあえずざっと気になったところやこの本の面白さを書き出せたので、一旦満足です!

また読み返して気付くことがあれば記事にしたいと思います。

沖方さんの他作品も色々読んでみたい。

ここまでお読みくださりありがとうございました!

*1:KADOKAWAオフィシャルサイトより引用